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手を入れて、美しい風景に関わろう!「石峯寺ラボvol.3 庭編」

最近目を閉じて心静かに過ごしたことはあるだろうか?世界のどこにいてもポケットの中の電話に呼び出され、それを見ればあらゆる情報が手に入る。めまぐるしく過ぎて行く日々の中で、無になって心静かにただ時間が過ぎるのに身を任せる時間を過ごしたい人も多いかもしれない。そんなとき、どんな場所に行きたいと思うだろうか。

今回、当初「日本の寺院にはなぜ見事な庭園があるか」というテーマで、元奈良文化財研究所副所長で和歌山大学教授の小野先生にお話をしていただく予定であった。テーマからは、京都の寺・名園が頭に浮かぶかもしれないが、かつては地方にそれぞれの文化があったと言われている。石峯寺は播磨国に位置するが、1370年に及ぶ歴史を誇り、十輪院の庭園も江戸時代にさかのぼる名園である。

お寺の縁側に腰掛けて庭を眺めるシーンを思い描いたらどうだろうか。仏像に手を合わせる方もいるだろうが、若者等にとっては庭を眺め、お寺という空間を味わう過ごし方はとっつきやすいと思う。現代人にとっても、庭園に表されている自然観はお寺にとって大切な要素で、日本人の心に深く根付いているものだ。

ただ、庭は建物よりも後回しになりやすい。地方のお寺では庭にまで手入れが行き届かなくなってきているところあるそうだ。しかし京都などの庭園に比べると、周辺の農村風景に大きな変化は無く、庭園本来の魅力にあふれているのではないだろうか、都会では聞こえない鳥や虫の声や、遠景に見える山に癒されることだろう。

淡河町の石峯寺の十輪院の庭は1997年に神戸市指定記念物(名勝)<※1>に指定されていて、この庭を再生し、皆が憩える場にしていけば、日本の美が拝めるのはもちろん、世界中から観光客が押し寄せる京都よりも実は心洗われる場所になるかもしれない。

今回行われた「石峯寺ラボvol.3」のテーマは「庭」で、手入れが行き届かなくなってきつつある十輪院の庭を一般の方の手を借りながら再生していく。

新型コロナウイルスの影響で室内での実施する予定の講演が中止になり、庭の手入れと見学の縮小版にて3月14日は実施。さらに雨という悪条件の中にもかかわらず、集まった15名の猛者たち。

「奥に見える幅4mほどある石は富士山の形をしていることから富士石と呼ばれています。」

まずは事務局の松岡さんより庭園を構成する要素についてレクチャー。

背後の山を借景に取り入れ、池を渡る橋や池の中に島がある見事な日本庭園だ。池を中心に歩いて回れるようになっており、複雑な形状や起伏のため、どこから見ても新しい風景を見ているかのような新鮮さを味わえる。

昨年、若い庭師の方たちにメインの庭木の強剪定を行っていたため、そこそこはきれいな状態だったが、去年に手つかずだった箇所を中心に、もくもくと作業を行った。


軽やかな手つきで サザンカの高さを揃えて行く、参加者の方と本職の山西さん。


2019年度の石峯寺ラボvol.1歴史講座でも紹介したが、石峯寺の裏山の整備をひとり行われている衣笠さんは実は造園のプロで、奥の池の中の倒木をチェーンソーで切り刻んで除去していく。

神影工房の石井理事長は木にまきつくツルと格闘中。

子どもたちもお母さん活躍

母も子も、後ろ姿は立派な職人だ。

 

文化財課の中谷さんからも文化財指定時の資料と現状を比べながら、作庭時の様子についての推察をお話しいただいた。

「僧塔が壊れてしまっているのが残念だが、こうやってまたきれいになって、人が集まり、皆に憩ってもらえる場になるならとても良い」と話してして下さった。

庭は生きものなので同じように枝は伸びて行かないし、同じ形のまま保存はできない。文化財といえどもそのときの人の手が入ってこそ美しさは維持される。かたちは変わって行って良いのだ。

作業完了。とてもすっきりした。

作業後は明石藩の殿様が眺められたという部屋の中から眺めをみんなで鑑賞した。

この庭園は池泉(ちせん)鑑賞式と言って、室内から鑑賞するタイプの庭らしい。
今ではアルミサッシがはめられていて風景全体と一度に見ることができないが、完全に開け放たれていただろう昔の風景をアルミサッシ越しに見える風景を繋ぎ合わせて想像してみると、それは見事で、皆作業を進めた充実感を実感するひとときだった。

作業後、ご住職に隣にある竹林寺の庭や茅葺きの建物も案内していただいた。

小学生の参加者も「たのしかったー。」と母親に話している。コロナウイルスで外出自粛が続く状況だが、自然の中で、 黙々と作業をして清々しい気分になるのもひとつかもしれない。そういう人の関わりで、日本の美の結晶の庭がより身近に感じられる場が増えて、また人のご縁が繋がるようになれば最高だ。

最後の講座は縮小版になってしまったが、これで11月歴史編、1月茅葺き編、3月庭園編と行って来た2019年度の石峯寺ラボは完結し、約50名もの方が石峯寺、神影の文化に触れ、維持に関わって下さる場が生まれた。3回の講座を通して、農村にある自然の摂理や日本の美などを学びながら、地域の方、地域に関わる方、皆が心豊かに過ごせる場所をつくっていくことに繋がる大きな一歩を踏み出した。(この3回の講座ははぁーとふるふぁんどの助成金をえて開催することができました、深く感謝します)

<※1>神戸市指定名勝 – 庭園、橋梁、峡谷、海浜、山岳その他の名勝地で我が国にとって芸術上又は観賞上価値の高いものとして神戸市が指定したもの。神戸市内に国指定のものや県指定のものもあり、前者の例が太山寺安養院(西区)、再度山公園・再度山永久植生保存地・神 戸外国人墓地(北区)、相楽園(中央区)等。後者が太山寺成就院庭園等である。